ジェロニモ・ゲレスさんのメッセージ「ガザでのジェノサイドは遠い地の出来事ではない。21世紀のホロコーストを一刻も早く終わらせましょう」

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ジェロニモ・ゲレスさんは、京都のホテルの元支配人。ある日の予約者がイスラエル国防軍(IDF)関係者とわかり、宿泊キャンセルを依頼したことで解雇されてしまいました。ジェロニモさんは今、不当解雇撤回を求め昨年11月に提訴し闘っています。
現在開催中の2025 ZENKOスピーキングツアー。5月26日の京都集会にて、ジェロニモさんから訴えがありました。その全文を紹介します。

ジェロニモ・ゲレスさん

パレスチナ・ガザ地区で、イスラエルによるパレスチナ人へのジェノサイドが始まってから、1年半が経過しました。

昨年の6月、イスラエルとその軍による戦争犯罪についての国連やアムネスティなどの国際人権団体の報告が相次ぐ中、私が当時支配人をやっていたホテルに予約が入りました。その予約をしたのは、イスラエル国防軍(IDF)の関係者でした。どうして彼がIDFの関係者だとわかったかというと、小さなホテルでは、より良いおもてなしを提供するために、お客様の情報をオンラインで調べることがよくあります。つまり、名前をGoogleで検索したのです。彼の名前を検索しましたら、彼の名前は検索結果のトップに表示され、誰でも見られるビジネス向けのSNSサイト「LinkedIn」に記載されていました。彼はそのサイトで、現在どこで働いているか、何をしているか等々を公表しており、彼がイスラエル軍の情報部に勤務していることが分かりました。

その予約を受けた同じ日に、私は彼にメッセージを送りました。メッセージの内容を簡単に言いますと、国連などによる多くの報告書によると、IDFがガザで戦争犯罪を犯しているため、予約を受け入れることで、ホテルがスタッフと私自身を含め、その犯罪の共犯者と見なされるリスクがあると伝えました。

このリスクを負うことはできないと説明し、彼に予約をキャンセルするよう依頼しました。彼は反論せずに私の依頼を受け入れ、予約をキャンセルしました。ホテル支配人として業務の一環である、危機管理をしたつもりでした。

驚いたことに、メッセージを送った翌日からホテルのGoogleマップページに非常にひどいレビューが投稿され始めました。「ホテルのマネージャーは反ユダヤ主義者だ」「人種差別主義者だ」「ナチスだ」といった内容で、私個人、ホテルに対しての攻撃と誹謗中傷はひどいものでした。

加えて、私の名前や職場、そしてやり取りしたメッセージまでもがインターネット上に流出しました。TwitterやInstagramなどのSNS上で炎上状態となり、数千万人の目に触れることとなりました。明らかな人権侵害です。

さらに、6月17日には、駐日イスラエル大使ギラッド・コーヘン氏が、ホテルの運営会社宛に書簡を送りました。

その書簡の中で、イスラエル大使は、イスラエル軍関係者の予約を「戦争犯罪への共犯のリスクがある」という理由で予約を受け入れなかった私の行為を、「国籍差別だ」と非難しています。そして、運営会社に私の解雇と謝罪を要求しています。一外交官が、国内企業に対して従業員の処遇について直接求めることは、不当な圧力であり、内政干渉とも言える行為です。

私の行動は国籍差別のいかなる類(たぐい)でもありませんでした。私の行動は国際法に基づくものであり、国際法はすべての国と人々が遵守すべきものです。

イスラエル軍は戦争犯罪を犯している――それは私個人の意見ではなく、国連をはじめとする国際機関の報告に基づく、国際的に共有されている認識です。去年の6月の時点でも言えたし、現在でも状況は変わらず悪化する一方です。

ご存じかと思いますが、日本ではホテルなどで暴力団などの犯罪組織にサービスなどを提供することが禁じられています。大判のお店や宿泊施設は暴力団や反社はお断りしています。イスラエル軍は暴力団や反社と同様に、あるいはそれ以上に違法行為をしているように私には見えます。少なくとも、暴力団などは戦車やドローンで民間人を無差別に殺したり、町・学校・病院を破壊したりしないでしょう。しかし、イスラエル軍はこういう行為をしている映像を自慢げにSNSに投稿し、誰でもその映像を見ることができる状態です。

犯罪組織に直接または間接的に関与する人間もまた犯罪者です。犯罪を犯している人がそうでない人と平等に扱われるべきではないというのが私だけの考えではなく、どこの国の法律の基本でもあります。

たとえていうと、車を運転してきたことを知りながら、その顧客にお酒を提供することは法律で禁じられています。飲酒運転がばれたら、お酒を提供した店員もその罪に加担することになっています。戦争犯罪を犯している組織に属している人であることを知りながら、サービスを提供することも同様だと思います。

6月20日、京都市が事件に関しての聞き取り調査を始めてたった3日で、ホテル運営会社に対して行政指導を行いました。

メディアはイスラエル大使の言った「国籍差別」そして京都市の行政指導の理由だけを報じて、私に取材をすることもなく、私の主張を報道することもありませんでした。そして、この事件の背景にあるイスラエルの戦争犯罪について、一切触れていません。

残念なことに、ホテル運営会社は、京都市の決定に反論を試みることもなく、その申し立てを受け入れました。そして、私はそのあと、会社から休職処分を受けて、結果的に解雇になりました。

様々な知り合いや私の弁護士を含む労働法の専門家に相談したところ、皆口を揃えて言ったのは「このような状況で、企業が従業員を守ろうとしないのは極めて異例だ」ということでした。解雇の理由として会社側は私が「会社の指示に従わないことが明白だった」としていますが、これは事実に即しておらず、反論をせざるを得ません。

会社はこの事件が起きておよそ10日後、私に、次のような内容の誓約書への署名を求めました。

「今後は、個人の信条を優先することなく、ホテルマネジャーとして業務に当たることを誓約します。」

皆さんなら、自分の「信条の自由」という人権を侵害するようなこの誓約書に署名できますか?

私はそれをサインすることを拒否しました。会社はそれをもって、「会社の指示に従わない」と結論づけ、私を解雇したのです。

名前や職場がインターネット上に晒されたことにより、私はプライバシーの侵害、名誉棄損を受けましたが、それについて会社特に対処をしないどころか、労働者を守るべきはずの会社が、今度は私の「信条の自由」までも侵害しようとすることには驚きました。

これまでの私の会社への貢献、勤務態度を鑑みることもなく、私が国際法を順守すべく行った行為をサポートするどころか、命令違反と断罪し、会社がまるで私を解雇に追い込むような姿勢と行為の連続を見せたこと、そして名誉棄損、脅迫という人権侵害の被害にあった従業員である私を守る姿勢すら見せなかった、その人権意識の低さは極めて残念です。私は私の解雇が不当なものであると信じており、私が愛着と責任をもってやっていた仕事と以前の生活を返してほしいという意思を示すべく会社を訴えることにしました。現在、裁判で闘っています。

ガザで行われているジェノサイドがなければ、私は解雇されることなく今も仕事を続けていられたでしょう。遠い地で起きている出来事のように見えるかもしれませんが、実際には私たちの生活とも深くつながっているのです。

私たちが声を上げなければ、罪のない子どもたちが今後も犠牲になり続けます。子どもが殺されるのを見ても「自分には関係ない」と思う人間性が失われた世界を自分の子どもに残したくない。京都でパレスチナ人のために戦った人がいたんだという記録を将来の人たちに残したいです。

皆さんも、21世紀のホロコーストとも呼べるこの状況を一刻も早く終わらせるため、どうか声を上げ続けてください。