パレスチナ連帯ツアー 広島(続)|モハマド・アローシュさんQ&A全文と平和記念資料館への記帳文

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ZENKOパレスチナ連帯ツアー広島集会(11月13日)において答えきれなかった質問に対し、無事帰国されたモハマド・アローシュさん(PWSUパレスチナ労働者闘争ユニオン委員長)が回答を寄せていただきました。

質問と回答

Q1 独立国家承認、二国家併存について

G7のカナダ、フランス、イギリスなどがパレスチナ国家の承認を宣言しましたが、この独立国家承認は具体化するでしょうか。具体化とはどういう状態のことでしょうか、又は二国家併存のために何が必要でしょうか。二国家併存は可能でしょうか。要は、口先だけの承認を言うイギリスは既に破綻している歴史を踏まえて、西欧は偽善的です。パレスチナの帰着点とは何ですか。

【質問1への回答】

G7のいくつかの国、たとえばカナダ、フランス、イギリスなどがパレスチナ国家を承認していますが、これは多くの場合政治的・外交的に象徴的な承認にとどまり、すぐに具体的な効果を生むわけではありません。それは公式声明、外交代表部の設置、国際舞台での支持表明といった形で現れますが、パレスチナ人が自らの領土で完全な主権を行使できることを意味しません。現実として、国境、資源、空域などの支配は依然としてイスラエルの占領下にあり、西側の承認は実際上の効果が非常に限定されています。

実体ある“国家”となるための条件

パレスチナが名実ともに独立国家となるには、以下が必要です:

  • 国際的に認められた明確な国境
  • 東エルサレムを含むヨルダン川西岸・ガザに対する完全な主権
  • 難民の帰還、入植地、資源、治安などの核心問題の解決
  • イスラエルに協定違反・領土拡大をさせない国際的・地域的な保証

しかし、西側諸国の声明の多くは表面的であり、入植停止や占領終結のための実行力ある措置を伴っていません。

将来の展望

現在の状況から考えると、二国家解決の現実的実現は困難であり、よほど大きな国際・地域圧力の変化がない限り実現しません。今後あり得るシナリオは:

  • 現状のままの凍結された状態が続く:
断片化されたパレスチナ領、制限された権限、エルサレムと入植地は占領下のまま。
  • 本格的な二国家解決の復活(可能性は現段階では非常に低い)
  • 単一の民主国家モデル(歴史的パレスチナの全住民を包摂)
→ しかし政治的・実務的な障壁は極めて大きい

結論として、西側の承認は象徴的性格が強く、現実を変えるものにはなっていません。最大の課題は、政治的承認を“現実の主権”へと転換できるかどうかです。

Q2 イスラエルの人々の優位を可能にしているものは

イスラエルの人々が優位な立場を維持しているのは、民俗的にいつごろからで、何がそれを可能にしているのか知りたいです。

【質問2への回答】

歴史的に見れば、ユダヤ人はパレスチナでも離散先でも支配階級や政治的支配権を長期にわたり保持したことはありません。多くの場合、政治権力を持たない少数派であり、一部の商業的・金融的影響力を持つにとどまりました。大きな変化は20世紀に起き、シオニズム運動の興隆、教育・経済力の利用、組織力、そして国際的支援(初期は英欧、後には米国)により、1948年以降、イスラエルは軍事力・経済力・政治力を急速に成長させました。

現在のイスラエルの優位は以下の総合結果です:

  • 軍事力
  • 経済革新
  • 国際的な軍事・政治支援
  • 地域の分裂や空白の利用

これがイスラエルを地域で強い影響力を持つ存在にしています。

Q3 ガザへの支援、ヨルダン川西岸の自治政府、非暴力の闘いについて

①いまガザに不十分ながらトラックで食料が運びこまれていますが、これはどこの団体が行っているのですか。財源はどこですか。
②ヨルダン川西岸の自治政府について、マスコミは、腐敗しているとか汚職が蔓延していると言っていますが、本当でしょうか。
③ヨルダン川西岸地区の中、情け容赦ないイスラエルに対して非暴力で闘うことの意義やその効果について教えてください。私は、アローシュさんの身の安全についても心配しています。

【質問3への回答】

①ガザへの食料搬入について、食料などの人道支援を主に担っているのは:

  • 国連(世界食糧計画 WFP 等)
  • 国際赤十字
  • 一部の国際・現地のNGO
  • 支援物資は多くの場合、イスラエルが支配する検問所(例:ケルム・シャローム/Kerem Shalom)を通過し、すべてをイスラエルが検査します。

資金は:

  • EU
  • アメリカ
  • 一部のアラブ諸国
  • 国連機関

などが負担しますが、実際の物資量は住民の必要量にはほぼ常に不足しています。

② パレスチナ自治政府の汚職問題

自治政府の機関では、一部に汚職・賄賂・行政上の不正があるとの報道が継続的にあります。全てが腐敗しているわけではありませんが、

  • 透明性の欠如
  • 監査の弱さ

が一部の幹部によって悪用され、社会的信頼を低下させています。

③抵抗運動(非武装抵抗)について

非武装の民衆抵抗は:

  • 国際社会への訴え
  • 道徳的圧力
  • 国際的共感の獲得

に重要な役割を果たしています。実際的な効果は武装抵抗よりも限定的ですが、パレスチナの現実を世界に見せ、支持を促す上で欠かせない活動です。

アローシュ(私)の安全について

私自身については、個人的・組織的な安全対策が極めて重要で、国内外の支援ネットワークが危険を減らしていますが、現状で不安があるのは当然です。

Q4 法的な現状と未来

オスロ合意・パリ協定を見直さなくてはいけないとのことですが、今は、イスラエル領内でパレスチナ人が生活する場合、イスラエルの法律が適用されるのだと思うのですが、では、イスラエル人が西岸地区に入植した時、彼らはパレスチナのルールに従う義務はないのでしょうか。パレスチナが国家承認されたなら、イスラエル人もパレスチナ領内においてはパレスチナの法に従う義務が国際法上も成立するということでしょうか。

【質問4への回答】

① 現状(オスロ・パリ協定のもとで)

パレスチナ人:

  • イスラエル支配地域ではイスラエル法
  • 自治政府地域ではパレスチナ法(オスロのA/B/C区)

イスラエル人入植者:

  • パレスチナ領内にいてもイスラエル法が適用
  • パレスチナ法の適用は事実上一切ない

つまり、民族による法体系の二重化が存在します。

② 将来、パレスチナ国家が国際承認された場合

  • 国際法上、パレスチナは“主権国家”となり、
西岸・ガザ(東エルサレム含む)全域への法的主権を持つ
  • そこにいるすべての住民(外国人含む)は本来パレスチナ法の対象となる

もちろんイスラエルが直ちに従うわけではありませんが、入植地の存在は国際法上、完全に違法となり、
パレスチナは法的に自らの主権行使を主張する大きな根拠を得ることになります。

結論

現在:入植者はイスラエル法のみ適用
将来:国際的にはパレスチナ法の対象となる(実務は依然複雑)

Q5 具体的な反占領の取り組み

ガザ地区でPPSFとPWSUは具体的にどのような反占領闘争をしていますか。

【質問5への回答】

PPSF(パレスチナ人民闘争戦線)とPWSU(パレスチナ労働者闘争ユニオン)は、ガザで以下の多様な反占領活動を行っています。

① 労働組織・農民組織の構築

  • 独立した組合を通じた組織化
  • 労働者搾取への対抗
  • 労働・国家問題に関する教育活動

② 政治活動・現場での抵抗• 反占領デモ・行進

  • 反正常化(ノーマライゼーション)運動 (注:パレスチナの文脈で「ノーマライゼーション」とは、占領‐被占領の構造が残されたまま、イスラエルと諸レベルでの諸関係を築くこと。)
  • 国家・国際レベルでの声明やキャンペーン

③ 社会支援

  • 労働者・貧困層への直接支援
  • 食料支援や給付
  • 心理・社会ケア

④ メディア・記録活動

  • 占領の犯罪記録
  • 社会・国際メディアへの発信
  • 国際連帯キャンペーン

⑤ 国際連携

  • 国際労働組合・人権団体との連帯構築
  • 国際会議での発言

結論:
“政治・労働・社会・メディア”の四つの領域を使った多面的な抵抗を展開しています。

Q6 世界のシオニストについて

世界の、また日本のクリスチャンが、イスラエル国家の建設・存続を正義だととらえて支援すべきだと考えていますが、どう思われますか。そのように考えている人たちをどのように説得していったらよいでしょうか。

【質問6への回答】

一部のキリスト教徒、特に「キリスト教シオニスト」と呼ばれる人々は、イスラエル支持を宗教的義務とみなしています。しかし、この立場には多くの問題があります:

  • イスラエル建国が引き起こしたパレスチナ人の強制移住とナクバを無視
  • 人権・国際法を軽視
  • 宗教と政治の混同

彼らへの説得の方法としては:

  • 普遍的価値(人権・正義)に訴える
  • 歴史的事実や国連報告を示す
  • 占領が人々の生活に与える影響を説明
  • 個人の物語を共有
  • 「宗教的正義と人間の正義は矛盾しないか?」と問う

目的は、宗教解釈だけで正義を語れないということを理解してもらうことです。

Q7 イスラエルの目的、日本政府の加担、イスラエルとパレスチナの今後の関係

①パレスチナを占領し、虐殺を続けるイスラエルの目的は何か。
②パレスチナへの支援ではなく、イスラエルの戦争政策を支持する日本についてどう考えるか。
③現在は、GPIF資金の投資によって日本の労働者のお金、年金資金でイスラエルの戦争に加担、また、1910年代には第一次世界大戦の敗戦国がパレスチナをイギリスに引き渡すことに合意した日本の歴史についてどう考えるか。
④イスラエルとは本当に信頼関係がつくられるのか。

【質問7への回答】

1)イスラエルの占領と虐殺の本当の目的

  • 土地・資源の支配
  • 自国の安全保障の名目での人口・領土支配
  • パレスチナ社会の弱体化
  • 恐怖・破壊による支配

最終的な狙いは:
パレスチナ人を屈服・追放・孤立した生活に追い込むこと。

2)日本の対パレスチナ・イスラエル政策

日本は政治的・歴史的にイスラエル寄りで、バランスを欠いた立場を取ってきました。

  • 武器関連技術や投資
  • 経済協力
  • 外交的中立を装いながら実質的なイスラエル支援

これは経済的・戦略的利益を優先した結果であり、正義や人権を基準にしたものではありません。

3)日本の歴史的役割と現在の投資

歴史的には:
• 第一次大戦後、英国によるパレスチナ支配構造(委任統治)を国際的に承認した枠組みに日本も関わった。→ 帝国主義的利害に基づいたもの

現在:
• GPIF(日本の年金基金)のイスラエル投資は日本の労働者の資金が占領・戦争の財源の一部になっているという問題を生む。
日本国内の市民運動が、政府のイスラエル寄り政策を見直させ、パレスチナ承認へと向かわせる力を持つことが必要。

4)イスラエルと“信頼関係”を築くことは可能か?

現実的には不可能。

  • イスラエルは占領を終わらせる意思がない
  • パレスチナ人の基本的権利を認めない
  • 現状の関係は“利害関係”であり、真の信頼ではない

Q8 パレスチナが解放されたあと─未来を担う指導者や体制について

イスラエルが孤立し、もはや存続し続ける力を失う日が来ることを私は心待ちにしています。その日が急速に近づく中で、私の関心はパレスチナの指導部に向かいます。パレスチナの人びとが自らの土地と家に戻ることを促進し、パレスチナのすべての住民を正義と自由への道へ導くためには、どの人物、どの指導者がふさわしいと考えますか。また、PLO とは別の指導体制が必要になるでしょうか。(質問の原文 I look forward to the day that Israel is isolated and without powers to continue existing. As that day rapidly approaches my thoughts turn to Palestinian leadership. Which persons or leaders do you want to facilitate Palestinians return to their lands and homes, and to set all inhabitants of Palestine on a Path to Justice and Freedom? Will leadership apart from the PLO be necessary?)

【質問8への回答】

イスラエルが孤立し、占領を維持できなくなったとき、パレスチナの帰還と解放を導く指導部は、以下を兼ね備える必要があります:

  • 包括的な国民的正統性
  • 制度的・組織的能力
  • 政治的に人々を統合するビジョン

つまり、個人ではなく“移行期の共同指導体制”が必要です。これは:

  • PLOを再構築して正統性を回復
  • すべての勢力・組合・独立系指導者・ディアスポラ代表を含める
  • 清廉で経験があり、国民の信頼を持つ人物が中心となる
  • 若者、労働者、大学、社会団体から新しい指導層が登場する

という形になります。

結論として:
PLOを清算するのではなく、再建することが鍵であり、その正統性と国際的地位を維持しつつ、全パレスチナ人が参加する新たな国家建設が必要です。

When Israel becomes isolated and can no longer maintain the occupation, the leadership that will guide the Palestinian return and liberation must possess the following qualities:
• Comprehensive national legitimacy
• Institutional and organizational capacity
• A political vision capable of unifying the people
In other words, what is needed is not an individual leader, but a collective transitional leadership structure.
This would take the form of:
• Rebuilding the PLO to restore its legitimacy
• Including all political forces, unions, independent national figures, and representatives of the diaspora
• Centering figures who are clean, experienced, and trusted by the Palestinian people
• Bringing forward new leadership emerging from youth, workers, universities, and civil society
In conclusion:
The key is not to discard the PLO but to rebuild it, preserving its legitimacy and international standing, while creating a new national framework in which all Palestinians participate in building their state.

広島平和記念資料館のメッセージノートへのアローシュさんの記帳文

ヒロシマの犠牲者の記憶は永遠に残り続ける。

それは私たち人類の記憶であり、私たちの「文明の時代」が抱える悲劇を示している。

ヒロシマは、痛みと悲劇のうえでガザの真実そのものだ。

灰の中から、廃墟の下から、両者はいつも立ち上がり続けている。

この記憶は永遠であり、決して忘れられることはない。

パレスチナから、野蛮な攻撃の下にあるガザから。

その攻撃は、人生と希望を奪い、押しつぶそうとしている。

私たちはいつも… 平和と自由、そして正義の武器を掲げる。

パレスチナに自由を。

ムハンマド・アローシュ

パレスチナ

(署名)

英語訳

The memory of Hiroshima’s victims will remain eternal.
It is a human memory that reveals the tragedy of our “civilizational age.”

Hiroshima embodies the true reality of Gaza in its pain and suffering.
Both continue to rise—from the ashes and from beneath the ruins.

This memory is everlasting and will never be forgotten.

From Palestine, from Gaza under a barbaric assault
that has stripped away and confiscated life and hope.

We will always uphold peace, freedom, and the weapon of justice.
Freedom for Palestine.

Mohammad Alloush
Palestine
(signature)